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松本 暁(まつもと あかつき)
詩人 utanoha代表

<ライブ情報>

・2014年4月13日(日)
■会場
東京倶楽部千駄ヶ谷店
■時間
open 13:30
1st stage 14:00
2nd stage 15:20
■料金
2100円(2ドリンク込み)
■出演
松本暁(詩の朗読)

・2014年4月20日(日)
■会場
中野aman
■時間
start 17:30
no charge
■出演
鈴木純、松本暁、長男ズ、廣瀬恭平、theharerock and more

・2014年5月11日(日)
デンデケプロダクション Vol.8
■会場
渋谷ラストワルツ
■出演
重力2、ランランズ、ヨソハヨソー、Swingy×松本暁、大谷彩子、grinramma




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中山聡 詩集「東京」
UTP-0002
¥500



zine "works"

これまでの活動が見れます。


興味をもってくれたかたは、
info@utanoha,jpまでメールください。


関西弁風の中国語を喋るタクシーの運ちゃんとリチャード・ン氏と小柄なおじさん
     




んん
ああ、まだ5時半か。

まだぜんぜん暗い。

江古田の古着屋で1900円で買ったコールマンのショルダーバッグのポケットのチャックを開き、すきまに腕時計を押し込む。まだ寝ていてもいい時間だ。ジッパーを開き毛布みたいに広げた寝袋を頭からかぶり、枕代わりにはショルダーバッグ。腰をねじって足を伸ばし、くるまっているショールの位置を修正する。うん、寒くないし、体勢も楽。ソファーの上だから布団みたいにはやわらかくないけど、快適な部類の寝心地と言える。半野宿にしては上出来だ。

ハンプ・ホステルのテラスレストランのガラスの入っていない開放的な窓、というか壁は腰ぐらいまでしかなくて後は角の柱と屋根がある程度の、普段ならゆったりしたくつろぎスペース夜は半分屋外という場所の、ソファーセットが2列にならんだうち壁側の列の真ん中のソファーの肘掛けと肘掛けのあいだに、僕は若干身を縮め気味で横になっている。

インドコルカタ行きで買った航空券は中国東方航空46,165円の格安チケットで、僕は2013年の1月18日14時30分に羽田空港を発ち同じく2013年の1月18日予定では中国時間16時30分、実際には30分遅れた17時過ぎに上海虹橋空港に着いた。それから、往路2回目のフライトMU581便が2時間後の19時05分これはチケットに書いてある当初の時刻で、実際はさらに2時間以上遅れた21時30分に同じく上海虹橋空港を出発した。それで1月18日夜12時過ぎ、言い換えれば1月19日未明今からだいたい5時間前にMU581便が着陸したのが、西はチベットへ手をのばし南にラオスと国境を接する中華人民共和国雲南省の省都、年間を通じて温暖な気候から「花都」とも呼ばれる中国南部の大都市、ここ昆明だ。

あれ、僕が買ったチケットはインド行きだったんじゃなかったっけと不安になってしまうほどの乗り換えの悪さで、僕はコルカタに向かっていて、往路3回目のフライト、インドコルカタ行きの飛行機は2013年1月19日23時55分に昆明長水空港国際線をやっと離陸することになっている。今が1月19日の朝の5時半だから、だいたいあと14時間後だ。取りあえずまだ眠っていられる。フロントが起きて普通にホステルが機能し始めたら僕も起きればいい。朝になったら空いたベッドはないかフロントに確かめよう。僕は体を縮こまらせて、寝袋とショールがじんわり保ってくれる温度をぎゅっと胸に集める。

客室のベッドではなく半屋外のテラスのこのソファは、真夜中にタクシーの運転手さんをあっちじゃないこっちじゃないとひっぱり回し、喧嘩のようなやりとりを散々かわした末にやっと見つけた寝床で。

ガイドブックのたぐいを特に見もせず、ろくにネットで調べもせずに昆明は比較的安全な街だから大丈夫だろうと高をくくって、紙に2、3メモして持って来たぐらいの情報的に僕はかなりの軽装でやって来たものだから、深夜1時ごろ街外れで空港と市街地を結ぶシャトルバスから降りて、バス停に客待ちしているタクシーに乗るというような緊張感でぐっと体に力を入れざるを得ない状況になってしまった。


自分が昆明のどの辺りにいるのか分からないままバスのステップを降り脇に顔を向けると、街灯に浮かび上がる2台のタクシーの無言の影。タクシーと言ってもちょっと古めの自家用車にタクシー会社の表示灯をくっつけましたというだけのしろもの。もしこれが悪徳タクシーだったらどこに連れて行かれるか分からない。最悪犯罪に巻き込まれることもあるだろう。外国にはそんな話は実際いくつもある。とは言え中心部までどれぐらい離れているかも分からないのだし、仮に歩いて市街地にたどり着けたとしても地図もないからそこがどこだかが分からない。もちろん宿の予約なんかしていない。しかも時刻は真夜中もいいとこだ。


1 関西弁風の中国語を喋るタクシーの運ちゃん
白と水色のタクシーの運転席の窓に、住所をメモした紙を見せながら声をかける。
「ウォー・シャン・チュイ・カメリアホテル。ドーシャオ・チェン?(カメリアホテルに行きたいのだけどいくら?)」
顔を出したのは、白髪まじりの短髪、目力ちょっと前のめり気味の、なんか大阪の岸和田あたりにいそうな人相風体の運転手さん。運ちゃんが一瞬間を置いて、斜め下につばを吐くように答えた。
「ウーシュー・クワイ(20元)」
タクシーの相場を知らないから自分がぼられているかどうかが分からない。まあ高くはない金額だと思い、助手席に乗り込む。僕はメモの住所を見せながら「ウーシュー・クワイ(20元ね)」と改めて確認する。間髪入れず運転手さんは、
「俺は嘘はつけへんがな。メーターもここにあるがな」
という意味合いだと思われることをでかい声で言った。運ちゃんはリアクションが早い。そして大きい。そんなところがなんか関西ぽい。イメージだけど。

最初に行ってもらったカメリア・ホテルが、つぶれたのか改築中かなにかで取り壊されていたのは、運が悪かった。そこに立てられていた大きな看板を指差して運ちゃんがなんか地団駄を踏むような感じで僕にツッコんで来た。
「なんでちゃんと調べておかへんのや、前もって!」(推定)

深夜の移動、なおかつ国境越えは旅行者としての最重要注意ポイントの一つなわけで、しかも今夜は16泊17日の今回のインド旅行の大事な第一泊目なのだから、ちょっと割高でも空港まで迎えに来てくれるホテルを予約しておくぐらいのことは、当然やってもよかったはずだった。面倒くさがらずに。まあどうにかなるでしょと開き直っていた末のこの結果は正しかったのか、間違っていたのか。

看板の周辺地図の左下にあるEast Young Hotelとかなんとか書いている黒丸を指差して、代わりにここに行けって書いてあるけど、それでええんか?というようなことを運ちゃんは言った。East Young Hotelとかがどんなところかは分からないが、一番近くだし、もう一つの黒丸は名前からして高級そうだから遠慮したい。安く泊まれるなら別にどこでもいい。僕と運ちゃんはタクシーに乗り込んで次の目的地へ出発した。

隣の運ちゃんが指を三本立ててこっちに突き出す。「最初は20元ゆうたけども、目的地が変わったからこれで30元やで、にーちゃん」ということを言っているんだろう。
「分かってる、分かってる、もちろんそれでいいよ」
と僕は日本語で返事をした。中国語で会話ができるはずもない。運ちゃんは英語も一切通じないから僕はもう同じだと思い日本語で喋っていた。


2 リチャード・ン氏
タクシーは街灯もまばらな道を2、3回ぐらい曲がってから意外とすぐに停まった。僕はタクシーを降りて、路地裏のビルの一回に張られtraveler's homeと書かれている看板の下にあるすでに閉じられた扉をノックした。呼び鈴が扉の右上にあったので押してみたけど中からはしばらくなんの返事なく、扉も開かない。ほかの入り口はないかビルの周囲を探してみようと歩き出した時、運ちゃんが「おい、こっちこっち」と僕を呼び戻す。扉が開いた。その中からガウン姿で出て来たのは、1983年公開の香港映画「五福星」のチンケ役の個性派俳優(自分を透明人間だと思い込む場面を全裸で演じたあのちょびひげの)リチャード・ンをこわもてにした感じのおじさん。なんか機嫌が悪そうだ。夜中に眠ってるところを起こされたから?

僕 「イーガレン、ファン、ドーシャオ?(一人一部屋いくら?)」
宿のおじさん(以下リチャード・ン氏) 「イーパイ・ウーシュー(150元だよ)」
僕 「イーパイ・ウーシュー!?」
ちょっと高い。チェックアウトは朝10時とか11時だろうから午前中だけのわずか数時間の滞在になるかもしれないこの宿にそんなお金はかけたくない。日本円にして3000円弱ではあるけど、宿の外見からも妥当な金額に思えず、低空飛行で乗り切る分しか持ち合わせがない自分の低予算外であり、でもそれらもろもろを中国語で何て言うかは分からない。とりあえず、首を振って話を続ける。
僕 「高い、高いよ、イーパイ・クワイ・チェン(100元にしてよ)」
リチャード・ン氏 「イーパイ?ハッ、イーパイウーシュー(100元?はっ、150元だよ)」
僕 「うーん、イーパー・ウーシューかあ。Do you have a dormitory here?If you have,it will be cheaper,yes?I prefer that.(ドミトリーはないの?もしあるなら、もっと安いだろうしそっちがいいのだけど)」
英語で喋りはじめた僕にうるさそうに手を振りながらリチャード・ン氏はなにかを中国語で言い返して来る。その間ニコリともしない。薄暗い廊下の奥から別の中国人が顔を出す。

「なあ、部屋はないねんか?」
いつのまにか隣にいた運ちゃんが助け舟を出してくれた。以下はわずかに聞き取れた単語から推定の日本語訳。
 
リチャード・ン氏 「あるよ、150元だって言ったら高いとかいってるんだよ、こいつが。それでなんかベラベラ言って来るんだ」
タクシーの運ちゃん 「こいつは旅行者で日本から来て着いたばっかりやねん。金も大して持ってなさそうやし、まけられへんの?」
日本人を意味する「ジューベン」という単語を耳にしたリチャード・ン氏の表情がより険しくなる
リチャード・ン氏 「なに、こいつ日本人か?じゃあ泊める気はない。部屋はないよ(ファン・メイヨウ)」
聞きつけて僕が食い下がる。
僕 「ファン・メイヨウ?あるって言ったじゃん!You said you have it!」
もう中国語も英語も日本語もめちゃくちゃだ。

「メイヨウ、メイヨウ(ないったら、ないよ)」
リチャード・ン氏は背を向けすたすた奥に歩き出した。寝室の自分のベッドまで一直線で向かう勢いの足取りで。こうなったらもう無理だろう。タクシーに戻る。運ちゃんも乗り込む。運ちゃんが「これからどこに行くねん?」とフロントガラスを見ながらたずねて来る。

The Hump Hostel
西山区书林街63号

僕はメモををポケットから取り出し、運ちゃんに見せた。
カメリア・ホテルとハンプホ・ステルという2つの宿の名前と住所、それが僕が調べて来た情報のすべてだった。カメリア・ホテルははすでに取り壊されていて、残る候補は1つ。中国では外国人は外国人向けの宿泊施設にしか泊まれない決まりになっているから、その辺の普通の宿に行ってもフロントで断られる。だから運ちゃんにどこでもいいから近くのホテルにつれって行ってとお願いするわけにはいかないし、運ちゃんは外国人向けの宿いわゆる渉外飯店を知っていそうにない。ここがだめなら野宿になる可能性もある。
「ハンプ・ホステル、ここ、ここに行って下さい」
運ちゃんは僕の手からメモをとり眺めた。
「こっちとは全然逆のほうやないか!」
「ここに行きたい!」
「今度は戻るんかい?」
「ハンプ・ホステル」
「まいるでこりゃ。元来たほうに戻るんやから。ここからちょっとあるで、30元じゃ行けへんからな。50元やからな」
運ちゃんはタクシーのエンジンをかけた。大通りを進んだり、空き地みたいなところ横切ったり、しばらくしてから広場のような場所でタクシーは停まった。周囲には営業中の店や屋台が並び、広場を明るく照らし出している。運ちゃんは建物の切れ間を指差して「あそこや」と言った。「このメモの住所はここやで」


3 小柄なおじさん
運ちゃんはいろいろあったが特に法外な料金を要求してくる訳でもなく客が望んだ場所に客を送り届けるというプロの仕事をしっかりと果たしてくれた(僕のバジェットが小さいのは彼の責任ではない)。
「謝々(シエシエ)」
僕はタクシーを降りて運ちゃん側にまわり込み、窓から手を入れてお金を支払った。運ちゃんは無言でなにかの身振りをした。

タクシーに背を向け広場を小走りで横切る。肩にかけたショルダーバッグは小さめのもので、空港から一度も下ろしていなかった。ぶら下げた寝袋が太ももではずむ。「The Hump Hostel 10メートル先を曲がる」という看板が見えた。オレンジ色の灯りで照らされた半開きの扉から中に入り、階段を3階に上がる。着いた。ハンプ・ホステル。

階段を上りきるとすぐに、左手には広いルーフトップ、開放的なテラス、右手にあるドアから入れば木目を生かしたちょっとアーリーアメリカンなラウンジに中央にはビリヤード台、その向こうがバーカウンター。フロントは左手の一番奥。ただ時間が時間だけに灯りはフロントのライトが一つあるきりで真っ暗。しかもそこには誰もいない。「ニーハオ、ハロー」とか声をかけてみるけど、時計を見たら2時半こんな時間に大声を出すわけにもいかない。無人のフロントの前でもじもじしていたら、向かいの壁にあるドアが開き、中から野球帽をかぶってよれよれのシャツを着た小柄なおじさんが出て来た。

「ニーハオ。 Would you have a vacant bed? in your dormitory(ドミトリーにベッドの空きはありますか?)」
僕は小柄なおじさんに話しかけた。小柄なおじさんは自信なさそうに気まずげに笑っている。僕はもう一度たずねる。
「I 'd liked to stay here.so would you have any vacant bed or room for me?(ここに泊まりたいんですけど空いている部屋かベッドはありますか?)」
小柄で野球帽をかぶったちょっと浅黒いおじさんは、泣き出すように笑い、首を振った。通じてないようだ。おじさんの右手がカウンターの上に開かれたノートを指差している。

そこには

1)あなたは部屋を探しているのですか

と英語と中国語で書いてあった。
そうです、探しています。「イエス」僕が返事をすると、小柄なおじさんが次の質問を指差した。

2)あなたは予約をしていますか

していません。予約はしていない。「ノー」
小柄なおじさんは問い2への僕の答えを聞くと、申し訳なさそうな顔で言った。
「メイヨウ (ありません)」

「えー、メイヨウ?」
「メイヨウ (ないんです)」
小柄なおじさんは繰り返し、手元の紙を指差す。そこには日付と旅行者らしき名前がずらりと並んでいる。予約者のリストなのだろう。小柄なおじさんはもう一度ノートの問い2を指差す。

2)あなたは予約をしていますか

僕は答える。「ノー」
小柄なおじさんは気まずそうに伏し目がちでほほえむ。
「メイヨウ (空きはありません)」

ベッドはたくさんあるはずなのに本当に空いてないのかとか、いろいろと質問をして糸口を探ってみたけど、英語なのでどうしても小柄なおじさんには通じない。なんか外国人が焦った顔でつめよってくる、という印象を与えただけだったに違いない。「なんであんたこんな夜中に予約もしないでやって来るの?」と言いたかったことだろう。ベッドの1つぐらい空いていると思っていたんだもの。

OK、謝々。と軽く頭を下げて、僕はドアからラウンジの外へ出た。空いてないものは仕方がない。テラスのフロアーに並んでいるソファーの一つに腰を下ろす。ここなら外みたいなもんだし小柄なおじさんの仕事の邪魔にもならないだろう。荷物の整理でもやってる振りをして出来るだけここに座っていよう。何か言われたら出ればいい。バッグの留め具を外し、荷物を体から下ろす。壁に寄りかかって一息つく。もしここが無理だったら、夜明けまで広場に座っていてもいい。なんならどこにも泊まらなくてもいい。最悪飛行機にさえ乗れれば。

ガチャンという音で顔を上げた。フロントから出て来た小柄なおじさんが、階段の前のドアを閉めた音だった。小柄なおじさんはドアに内側から鍵をかけ、通路を横切りフロントに戻った。僕が中のテラスにいる状態で玄関を閉めたということだから、いてもいいよということなのか。僕は小柄なおじさんの粋なはからいのおかげでこのソファーを寝床にすることが出来るようになった。という訳で。


横になったまま体をよじって手を伸ばし、
枕代わりのショルダーバッグから腕時計を取り出して時間を見る。
6時22分。

まだ空は真っ暗だ。1泊目は半野宿か。
なにをやっているんだろうなあ自分は、と思う。
Mなのか能天気なのか、いい加減なだけなのか、
自業自得ではあるのだけど、でもこの感じがたまらなく楽しい。

雨風の心配がなくてさらにあたたかい寝床があればラッキーだ。
ここなら安心して朝を待てる。

明日は何をして過ごそう。部屋代は2日分払っても100元以下だろうからドミのベッドに空きが出たら夜までここにチェックインしよう。そうすれば荷物も置いておけるしいつでも休憩が取れるから、時間をつぶして街をウロウロしなくてすむ。昼寝もちょっとしたい。あとは街を歩いてどこかでなにか麺系の中華を食べたいな。もちろん中国のビールも飲む。長い長い歴史を持つ広い広いこの国に今自分がいるのかと思うとそれだけでうれしくなって来る。短い滞在を楽しむためには移動の疲れはやわらげておくほうがいい。僕は目を閉じて、体を緩めた。



2013/01/18-19
昆明 中国
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by matsumotoakatsuki | 2013-02-11 23:08 | インドに詩の朗読をしに行く