来るな、と彼は言った自分の力じゃ
どうすることもできないことがあると分かった時
おまえはどうするね
おじいちゃんは
籐の揺り椅子に腰掛け
庭の木々を眺めながら僕にたずねた
答えあぐねていると
おじいちゃんは微笑んだ
そうだ
わたしもそうだった
どうすればいいか分からなかったんだ
体が動かなかったよ
彼はすぐ近くにいたんだ
ちょうど今のわたしとおまえぐらいの距離だ
けれど随分遠くに感じたものだ
おいしげる南方のジャングルのせいではなかったろう
僕は麦茶のコップをテーブルに置いた
テレビの甲子園中継が
出場校の地元の声を伝えていた
チアガールが泣きそうな顔で
グラウンドを見つめていた
彼は撃たれていたんだ
腹だよ
腹を撃たれたらもう助からない
弾が飛び交っていた
わたしは木の陰から一歩も出ることができなかった
来るな、と彼は言った
その時の彼の目を
わたしはこの年になっても忘れられない
おじいちゃんは立ち上がり
窓辺に手を置いた
最後に笑ったよ
あいつは
いつもと同じように